射手座の男/赤いマスタング

18禁のBL小説です。音大のバイオリン専攻大学院生×ピアノ科学生の恋愛と、ニューヨークに住む30代日本人男性二人の恋愛の2本を載せています。※移転しました。移転先はプロフィールの下に。

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赤いマスタング 1-4

 今日は日曜日だ。この部屋に寺本を招待した。
 滝田のアパートに同僚以外の友達が来るのは初めてのことだ。塾から近いので、平日の夜はよく独身講師たちの溜まり場になる。土曜の晩には飲み屋や雀荘と化す。同僚たちが来る時は散らかっていようが臭かろうが全く気にしない。眠くなったら雑魚寝だ。部屋では靴を脱いでいるので絨毯もそう汚れない。
 しかし寺本が来るとなるとそうはいかない。寺本の家はいつもきれいに片付いている。家では何もしないからだと寺本は言うが、滝田だって家では何もしない。それでも脱いだ靴下はあちこちに散乱し、塾から持ち帰った資料はテーブルやキッチンカウンターの上に山積みだ。乾燥機から出した洗濯物はカゴの中に入れたまま、畳んでタンスにしまうこともなく、着る都度カゴの中から一枚ずつ取り出す。男の一人暮らしなど普通はそういうものだ。思えば掃除機もしばらくかけていない。二ヶ月程前、麻雀で滝田が勝った時、負けた後輩の佐藤にかけて貰ったのが最後だ。
 寺本が来るのは夕方だ。彼は昼間友達との集まりがあると言っていた。
 昼前に起きた滝田は、まず床の上の靴下や下着を集めて洗濯機に入れることから始めた。それから大きなゴミを集めて、仕上げは掃除機である。ベッドの下から埃だらけの靴下が五本も出てきた。
 夕方までにはすっかり片付いた。大きな黒いゴミ袋が四つもできあがった。その袋をアパートの地下のゴミ置き場に運んで、戻ってきて改めて自分の部屋を見回した。誰が見ても普通の部屋だ。やろうやろうと思っていた掃除がやっとできたのである。
 溜まっていた洗濯物もやっと洗うことができた。洗濯機と乾燥機を二ラウンド回した後、大きなカゴに押し入れた。畳んでタンスにしまおうとしたが、やはり面倒なのでカゴのままクローゼットの中に隠した。
 定期的に寺本をここに呼ぶことにしよう。掃除と洗濯をするいいきっかけになる。
 すっかり片付いた部屋のソファに座って一息吐いていると、玄関のブザーが鳴った。
「いらっしゃい」
 ドアを開けると、丈の短い黒いレザージャケットと黒いレザーパンツの寺本が立っていた。いつもと比べてずいぶんとワイルドな服装である。細い脚にぴったりとした革がよく似合う。
「お邪魔します。いいアパートだね。森の中のアパートだ」
「すぐ解りました?」
「ああ、解りやすい地図だったよ。ありがとう。塾も見えたよ。すぐそこなんだね」
「そうなんですよ。今日は泊まってって下さいね。ピザ取りますから」
 寺本の手にぶら下がったビニール袋から香辛料のいい匂いがしてくる。
「カレーとナンを買ってきたよ。カバブとタンドーリチキンもある」
 滝田が肩をすくめた。
「…いつもすみません」
 滝田はそう言ってビニール袋を受け取った。寺本は手を添えて黒い革のブーツを脱いだ。ごつごつした踵の高いブーツだ。いつもより背が高く見えたのはこのせいだ。
「今日は随分とまた、何ていうか、いつもと雰囲気が違いますね」
「仲間内でパーティがあったんだ。途中で抜けてきた」
 寺本はそう言いながらリビングの短いソファに座った。
「え、よかったんですか?」
「いいんだよ。君に会いたかったし」
「嬉しいなあ。ボクも寺本さんに会いたかったですよ」
 言ってしまってから、滝田は何だかおかしな気持ちになった。
 これじゃまるで恋人同士の会話だ。
 首をひねって気持ちを入れ直した。受け取ったカレーの匂いのビニール袋をテーブルに置き、自分は長いソファに座った。
 寺本が下を向いて言った。
「こんな格好じゃバレバレだよね。僕はこういうの、あんまり好きじゃないんだけど、でも、何ていうか、今日の主催者がこういう嗜好で……」
 寺本がジャケットを脱ぎながら言った。ジャケットの下は黒いメッシュのタンクトップだった。細いとばかり思っていた寺本の体は案外筋肉質だった。その腕に毛はない。ジャケットをソファの背もたれに掛けて、両手を組んで膝の上に置き、真っ直ぐに滝田を見た。肩の筋肉がくっきりと浮かび上がり、小さな乳首が透けて見える。滝田は思わず目を背けてしまった。
「…ごめんね。これが僕だよ」
 寺本は下を向いて、静かに笑った。
「やっぱり駄目かな…」
「駄目ですよ」
 滝田が言うと、寺本は驚いて顔を上げた。
「その服装でカムリじゃ合いませんもん。やっぱそれならハーレー・ダビッドソンとか、せめて750ccくらいのヤツでないと。ボク、前にBMWのオートバイに乗ってたんですよ。革ジャンは着てませんでしたけどね」
 滝田はビニール袋からカレーを出しながら言った。寺本は目を丸くしたまま滝田を見ている。
「でも、そういう格好も似合ってますよ。寺本さん、何着てもかっこいいです」
 本当に似合っている。滝田だったら売れないロックンローラーのように見えてしまうだろう。ロックンローラー…
 あ、やっと気が付いた。
「もしかして…」
 寺本は期待する目で身を乗り出した。
「ちょっと早めの、ハロウィーン・パーティ?」
 寺本は何か言いたそうな顔のまま固まった。
「…いや、うん、まあ…そんな感じ……かな…」
「やっぱり。そうか、もうすぐですよね。ボク、毎年その日は塾にチョンマゲのヅラ被っていくんです。子供たちも面白い格好してきてくれるし。どこにしまったっけなぁ、ヅラ。今スプーンとフォーク、持ってきますね。ナイフもか」
「あ、うん………ありがとう…」
 そう言って、倒れ込むようにソファの背もたれに寝そべった。
「クローゼットの中だっけなあ…」

 塾の話や大学の話で、時間は矢のように過ぎた。
 話し疲れた滝田は、日本から持ってきた将棋の道具を出してきた。寺本は懐かしそうに将棋に興じた。
「チェックメイト!」
 滝田が叫んだ。
「チェスじゃないんだよ」
 寺本が笑った。
「そうか。あれ? 将棋は何て言うんでしたっけ」
「えっと……ツメ?」
「あ、そうだ。いや、詰み?」
「いずれにしても僕の負けだ。やっぱり将棋は頭のいい人には勝てないよ」
 滝田はふと時計を見た。十一時を指している。泊まっていってくれとは言ったが、このアパートにベッドは一つしかない。このソファもソファベッドにはなっていない。だから滝田はソファで寝るつもりでいたが、それを寺本に言えば、きっと彼の方がソファで寝ると言い出すだろう。そんなことをさせる訳にはいかない。我ながら無責任な招待をしてしまったものだ。寺本と雑魚寝する訳にはいかないのだ。
 滝田が思い出したように言った。
「あ、昨日マサハルくんが結婚式の写真持ってきてくれたんですよ。見ました?」
「いや、マサハルくんのレッスンは明後日だから、その時にでも見せてもらえるかな」
「ちょっと待って下さいね」
 滝田は写真をアルバムに貼る習慣がないので、否、貼るのが面倒なので、撮った写真や貰った写真はすべて机の引き出しに無造作に入れてある。引き出しの中からマサハルに貰った写真を出して寺本の元へ持って来た。一番最近貰った写真なので、一番上に載せてあったのだ。「これですよ」
 滝田は短いソファの寺本の隣に座って写真を見せた。出席者全員が並んでいる集合写真だ。日本でいう六つ切りに近いサイズで焼いてあり、きちんと台紙に貼ってある。滝田が立っているのは一番後ろの一番端だ。昔からこの位置が定位置になっている。寺本は身を乗り出して写真を覗き込んだ。
 寺本の素肌の肩がすぐ近くに来た。そして二人の肩が触れ合った。何だか温かい。
 寺本からはいい匂いがした。マグカップを出そうと背後に近寄った時、そういえばこのいい匂いを嗅いだ。整髪料の匂いなのか、髭剃りジェルの匂いなのか、それとも寺本の元々の匂いなのか。横顔を見るとまつ毛がとても長いのが解った。肌のきめも細かい。それから視線を写真に移す。写真の中の寺本は眉と白い歯が目立っている。女性のような顔立ちにもかかわらず、印象が女性的でないのはこの太い眉のせいだ。
 滝田は写真の中の寺本と、今隣にいる寺本とを見比べた。その服装は全く対照的だ。タキシードとジーンズが対照的だなんてレベルではない。黒いタキシードと黒いレザー。フォーマルとワイルド。しかしどちらも本当によく似合っている。
「やっぱ可愛いですよね、渡辺のお嫁さん。タコツボではいろいろ言われてたけど」
 滝田は結婚式の二次会での女性たちの会話を思い出しながら、伏せ目がちに言った。
「あの後ね、やっぱり大岩さんが、花嫁さんのこと、いろいろ渡辺に言ったらしいんですよ。ボクの同僚、下品に見えたかもしれませんけど、あの先生だけなんです。他はみんな基本的には真面目です。言いつけるのは大岩さんくらいです」
「それは大変だったんじゃないの?」
 寺本は顔をしかめた。
「でもね、渡辺って、そういうの全然気にしない奴で、それがどうしたって感じだったんですよ。最初はちょっと無理してるのかなって心配したけど、どうやら本当に気にしてないみたいで、安心しましたよ。っていうか、渡辺自身、ヒトのこと言えないっていうか…」
 寺本も「よかった」という顔をしてうなずいた。
 二人は写真に見入った。空は雲ひとつない青空だ。ほんの一ヶ月前の事が随分と昔の事のように思える。この写真の頃はまだ時折生暖かい風が吹いていたが、十月の下旬にさしかかった今は、明け方には冷え込んで暖房をつけることさえある。あの頃青々と茂っていた森の木々の葉も、今ではすっかり赤や黄を呈している。楓の種たちは竹とんぼのようにくるくると回りながら舞い落ち、漂鳥たちも山から下りて来た。
 そして何よりこの写真からたった一ヶ月で、それまで全く接点のなかった二人がすっかり親しい友人になっていた。
「なんだか、マサハルくんのお母さんが一番目立ってませんか? これじゃまるで錦鯉だ」
「はは、錦鯉か、それはいいね」
「それに、何だか隣の寺本さんに寄り添ってませんか? あっ」
 急に滝田が大きな声をあげた。
「な、何?」
「思い出した。あの花嫁さん、寺本さんが先に紹介されたそうじゃないですか。もったいないなあ、こんな可愛い子、断っちゃって。タイプじゃなかったんですか?」
「紹介された訳じゃないよ。写真だって見てないし」
「失礼かと思って今まで聞きませんでしたけど、思い切って聞いちゃいます。マサハルくんから、寺本さんには付き合ってる女の人はいないって聞いたけど、それ、やっぱり本当ですか?」
「本当だよ」
「ボクに気を遣ってませんか?」
「そんなことないよ」
「だったらどうして断ったんですか?」
「僕はゲイだから」
 笑顔の並んだ写真がぽとりと床に落ちた。

 しばらく滝田は動くことができなかった。
 何も考えられなかった。
 寺本も動かなかった。
 ふと我に返って、滝田は目を閉じた。
 頭を整理してみる。ここはアメリカだ。ニューヨークだ。そのことを踏まえて、考えなくてはならない。驚くべきことなのか、驚くほどのことではないのか、冷静に考えなくてはならない。
 触れ合っていた肩が離れ、体が少しずつ隣の寺本から遠ざかって行くのが解った。何か言わなくては。しかし言葉が見つからない。
「…ごめん、驚かせちゃったね。別に黙っててもよかったんだけど…こう何度も会うようになると…何か隠しているみたいで申し訳なくて…」
 いつも冷静な寺本がうろたえている。ビールを持つ手が不自然に動いている。寺本も少しずつ滝田から離れている。
「これは僕の問題だから、君は、何も気にしなくていいんだ、今までどおり、友人として接してくれれば…無理にとは言わないけど…。言わない方がよかったかな……いや、それもずるいよね…」
 いつも真っ直ぐに視線を合わせて話す寺本が、視線を逸らして右へ左へと顔を背けている。
「大丈夫だよ、君に襲い掛かったりしないから。それは立証済みでしょ?」
 そんな事を心配しているのではない。滝田は今、どう反応するべきか考えているのだ。
「今までだって、君が寝てる間に変なことは何もしてないよ、本当に。ゲイだって、友達が欲しいんだ。男と見たら襲い掛かるわけじゃないんだよ…」
 寺本は大変なことを実にあっさりと話してくれた。「実は隠していたことがある」などとつまらない前置きもしなかった。だから、滝田も「へえ、そうなんですか」とあっさり答えるべきなのかもしれない。或いは「えええええ、びっくり、マジですか?」とおどけてみせるものひとつの手だ。それとも、単に気持ち悪そうな顔をすれば、それですべてが終わるのだろうか。
 いずれにしても、今すぐ気の利いた反応をすることはできない。滝田は何事にも時間が掛かる男なのだ。
「今日はもう帰るよ。驚かせて悪かったね。おやすみ」
 ソファの背もたれに掛けていたレザージャケットを持って、寺本は部屋から出て行った。
 滝田には引き止めることも、声を掛けることもできなかった。下を向くと、ジーンズの膝にカレーがついているのが見えた。未だに服を汚さずに食べることができない滝田であった。
 それからしばらく、体を動かすことができなかった。



 それからずっと、職員室でも滝田はずっとその事ばかり考えていた。新聞を読みながらも、視線はどうしてもぼんやりと窓の外に行ってしまう。口から出るのはため息ばかりだ。
 あれから寺本と連絡を取らないまま、週末が過ぎた。寺本と出会って以来、一人で過ごす週末は初めてであり、以前と同様、昼寝とテレビで無意味に終わった。今週になっても、何となく寺本に電話するのははばかられた。
 別にゲイの男に偏見を持っている訳ではないのだ。単に「驚いた」というのが一番適切な表現かもしれない。偏見も何も、今までそういう男が身近に居なかったのだから偏見を持ちようがない。そういう性癖が存在することはもちろん知っていたが、滝田にとってそういう世界は、あくまでもブラウン管の向こうの世界だったのだから。
 今一番気掛かりな事は多分、「驚いてしまった」という事実だ。あの時の寺本の凍り付いたような目。それから踊った目。いや、滝田の目こそが凍り付いていたはずだ。
 傷付けてしまっただろうか。あの凍り付いた目こそが偏見の象徴なのだろうか。
 机の上の携帯電話をじっと見つめていると、その電話の向こうから猫撫で声が聞こえた。
「滝田センセ、今週はずっと変ですよ。どうしたんですか? 元気ないですよ。恋患いかな?」
 顔を上げると大岩がコピーをしながらこっちを見ている。かなり大量のコピーをしているらしく、コピー機はさっきから大きな音を立ててずっと動いたままだ。
「最近週末は留守らしいし」
「元気ないですか、ボク」
 大岩がまだ温かそうなコピーの束を抱え、薄笑いを浮かべて近付いて来た。
「っつうか、そのヅラで真剣に悩まれてもなあ…」
「大岩さんこそ、何ですか、そのカトちゃんメガネ」
「ハリー・ポッターだよ。この額の傷を見ろよ」
「ガンジーかと思いましたよ」
「生徒が来たらヅラも被るよ」
「大岩さんって、百戦錬磨ですよね」
「な、何だよ、急に」
 大岩は目を丸くする。
「ま、女性にかけてはね。何でも相談に乗るよ」
「男性はどうですか?」
「ば、何言ってんだよ、お前」
 しかし大岩は興味を持ったらしく、滝田の隣の空いている椅子に座って身を乗り出した。周りを見渡して近くに誰もいないことを確かめると、滝田の耳元でささやいた。
「そういう男の友達は日本で何人かいたよ」
「そうなんですか?」
 大岩はコピーの束を滝田の机の上に置いた。
「お前、最近付き合いが悪いと思ったら、そういう連中と付き合ってるの?」
「そういう訳じゃないですけど…」
「なるほど、だからアドレス帳に女の名前がないのか…」
「……ちょ、ちょっと、大岩さん、もう、信じられない…」
 滝田は慌てて机の上の携帯を掴み取って、胸ポケットにしまった。
「あ、でも、ああいう奴らって、女の名前使ってるよなぁ…」
「…そうなんですか?」
「いやね、新宿校にいた時、そういうバーによく通ってたんだよ。うちの新宿校、二丁目に近いだろ?」
「えっ、それじゃ大岩さんって…」
 滝田が大きい声を出す。
「いつものアレは…カムフラージュだったんですか?」
「馬鹿、誤解するな。調査だよ、調査。あいつらの話、何かと勉強になるし」
「べ…勉強?」
 大岩は更に声を潜めて嬉しそうに言った。
「女には聞けないことも、ああいう連中になら聞けるだろ? 男のどういう仕草がセクシーかとかさ、どういうセリフにまいっちゃうかとかさ、あとはさ、その、ほら、あれだよ、あれ」
 もう一度辺りを見回し更に身を乗り出して、嬉しくてたまらないといった風に言った。
「プレイだよ、プレイ。いろんなプレイ。感じちゃうプレイ。結構いいプレイ、知ってんだよ、あいつら」
 滝田は焦って周りを見渡した。幸いコピー機がうるさく誰にも聞こえなかったようだ。校長も電話中である。
「一緒にいて恐くなかったですか?」
「…おれが?」
 大岩はお世辞にもいい男とは言えない。もっとも、いい男なら努力しなくても女性は寄ってくるのだろう。本人も自分は女性にモテないと認めていて、モテないからこそ努力しているのだそうだ。
「突然襲われたらどうしようとか」
「…襲われちゃったの?」
「もう、そういうことじゃなくて」
「やっちゃったの? やられちゃったの?」
「だから違いますって」
「幸か不幸か、おれ、そういう連中にも、モテなくてね」
 大岩は「も」を強調して言った。
「おれのこと、襲うなよって言ったら、オカマにだって選ぶ権利はあるわよって怒られちゃったよ。一晩中一緒にいても平気だったな」
 そうか。女性にモテないくらいだから男性にもモテないのだ。滝田と同じである。
「お前のことが好きって言うなら話は別だけどさ、そうじゃないなら普通に友達として仲良くしてやれよ。取って食われる訳じゃないしさ。結構優しいんだよ、ああいう連中は。心は女だからな。だからハマるんだよ、あの手のバーは」
 滝田の肩を右手でポンと叩いて立ち上がると、大岩はコピー機へと戻って行った。
 いつも下ネタ話ばかりしながらも、時々意外な言葉を掛けてくれる。それが、大岩があれだけ下品であるにもかかわらず、何となく嫌われない由縁でもある。
 滝田は子供の頃から、何か悩み事があると必ず兄に相談していた。寺本とのことで悩んでいた滝田だが、大岩の一言で、喉につかえていた魚の小骨がスッと取れたような気がした。大岩のことは今ひとつ信頼できないが、今回の件に関しては滝田も納得できる答えを貰えたような気がした。
 しかし寺本は「オカマ」というのとは違うような気がする。「心は女」というのも少し違うのではないか。かと言って男を襲う男にも見えない。でも男が男を好きなら、必ずどちらかが「男役」で、もう片方が「女役」なのではないのか。それともその認識は間違っているのか。そうだ。「女役」が欲しいのなら、相手は女で十分なのだから、あえて男を選ぶ必要はないのではないか。だったら…。
 ん?
 頭が混乱して来た。よく解らない。
 気を取り直して顔を上げると、コピー機の前に立つ大岩と目が合った。何となく聞き耳を立てられるような気がして、滝田は胸の携帯を確認しながら職員室の外に出た。
「もしもし、滝田です。明日の土曜日、遊びに行ってもいいですか?」
 寺本の携帯の留守電にメッセージを入れた。

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テーマ:自作BL小説 - ジャンル:小説・文学

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