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射手座の男/赤いマスタング

18禁のBL小説です。音大のバイオリン専攻大学院生×ピアノ科学生の恋愛と、ニューヨークに住む30代日本人男性二人の恋愛の2本を載せています。※移転しました。移転先はプロフィールの下に。

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赤いマスタング 2-2

 二月初旬、私立の受験を終えた塾の生徒たちが次々と職員室に合否報告に訪れる。 生徒が挨拶に来る度に喜んだり顔をしかめたりで講師たちは忙しい。合格とはいっても、あまり希望しなかった学校であったりした場合、本人も親も手放しに喜んではいない。そんな時、滝田はどうしても自分の大学受験を思い出してしまい、とても他人事とは思えなくなってしまうのだ。
「受けた私立高校、全部落ちちゃったんすね、タダハルくん」
 若い佐藤がつぶやいた。タダハルはマサハルの兄だ。
「可哀想にね」
「帰国子女枠だったんだろ? それでも駄目だったの?」
「それが英語も日本語も中途半端だったらしいっすよ、スポーツばっかりしてて。ほら、しゃべれるけど書けないってやつ。文法滅茶苦茶ですから、彼」
「で、どうするの。行き場ないじゃん。今さら五科目受験の公立なんて無理だし」
 受けた高校をすべて落ちてしまったのはタダハルただ一人だ。高校は義務教育ではないので、中学のように「私立が駄目なら学区の公立中学に行く」という選択肢が残っていない。
「こっちに残るんだそうです。こっちのハイスクールで英語を頑張って、大学を帰国子女枠で受けるんだって言ってました」
《残念だったね》
 滝田には馴染みの言葉だ。耳にタコができるほど聞いた。
《で、どうするの? もう一年頑張るの?》
 予備校の先生の声が聞こえるようだ。そんなの自分でも解らなかった。
 不合格になってしまった生徒を慰める言葉なんてない。滝田はそれが痛いほど解っている。文字通り、身をもって知っている。
『先生だって二度も国立に落ちたよ。でも、こうしてちゃんと生きてるよ』
 慰めにはならないが、そう言ってやりたい気持ちでいっぱいだ。しかし塾側から、その話はしないように言われている。生徒が冷静になった時、「落ち癖のある先生のいる塾じゃ縁起悪い」と言われては困るそうだ。かと言って、落ち込む生徒を前に、ただ黙っている訳にもいかない。仕方なく「残念だったね」という言葉を繰り返すしかない。その優しい響きは、嫌いではなかった。
 廊下の冷水機の前でマサハルに話し掛けた。
「残念だったね、お兄さん。こっちのハイスクール、続けるんだって?」
 コップに汲んだ冷水を飲みながらマサハルが振り返った。
「ええ。二次募集に申し込んだところで、どうせいいトコはどこも受からないでしょうし、だったらアメリカでハイスクールに行ってますっていう方がかっこいいですからね。うちの親は見栄っ張りなんです。うちの学区のハイスクールは結構レベル高いんですよ。楽ですよね、無試験でいい高校入れるなんて」
 アメリカでは、義務教育はたいていの州で十五、六歳までだが、高校卒業までは誰でも学区の公立校に通うことができる。
「ま、人間万事塞翁が馬です。こっちのハイスクールっていうのも、長い人生、案外いい選択かもしれませんよね。テレビのドラマ観てても、高校生ってスポーツとか恋とかばっかりしてて楽しそうだし、青春って感じするし、彼、モテるし」
「そうだね。何が幸せだったのかなんて、棺桶の中に入る時まで解らないものかもね。タダハルくんならしっかりやるさ」
「うちの親は、兄を日本の大学に入れたがってますけど、こっちに残って、こっちの大学に入るってのもいいと思うんですよ。彼にはその方が合ってると思うんです。彼、父がヒューストンに駐在してた時に生まれたんで、アメリカ国籍も持ってるんですよ。だからアメリカの大学も入りやすいし」
「へえ、そうなんだぁ。国籍二つ持ってるんだ」
「彼ならスポーツ推薦も取れるでしょう。ぼくはスポーツが全然駄目だから、勉強ばっかりしてるんです。兄はかっこいいけど、ぼくはドン臭いし。将来どんなに偉くなったって、勉強以外何も残りません」
《野球、やめちゃうのか?》
《塾に通うんで》
《お前、コントロールいいし、背も高いし、足も速いし、結構いい線行くと思うんだけどな》
《…すみません、監督》
「勉強だけ残れば十分だよ。十分過ぎるよ」
「でもそれだけじゃ、今時はお嫁さんが来ませんから」
「…ああ、なるほど」
 それでもやっぱり、何が幸せだったかなんて解らないものなんだよ、マサハルくん。これだけは自信を持って言えるんだ。



 シャワーを浴びた寺本が何も身に着けずにピアノを弾いている。激しい曲ではないが、何も身に付けていないと腕が大きく動くたびに二の腕の筋肉が盛り上がるのがよく解る。滝田はその上腕筋に興奮を覚えた。
 初めて見た時、寺本の体が細く見えたのは寺本の筋肉が肩から胸の上半分にかけてについているせいだ。胸の下半分から胴にかけては細く締まっている。
「その曲知ってるよ。ビリー・ジョエルの『This Night』でしょ?」
「ベートーベンの『悲愴』の二楽章だよ」
「え、そうなの? でも悲愴な感じがしないね」
「ここは優しい感じがするよね。ビリー・ジョエルがつけた歌詞のイメージそのものだ。今夜、君は僕のもの、今夜は永遠に続く」
 滝田の目を見てつぶやいた。
 滝田は寺本の背後からピアノの椅子をまたいで座り、脚に挟んだ寺本の体に手を回した。肩にキスをした。濡れた髪、耳、首、そして左手で顎を持って振り向かせ、その唇にキスをした。キスをしながら右手を腹に這わせ、まだ石鹸の香りのする股間をまさぐった。
「…鍵盤が見えないよ」
「ねえ…」
「ん?」
「…弾きながらしたこと、ある?」
 子供がおもちゃを弄るように手を動かしながら滝田が言った。
「よく映画とかであるでしょ? ああいうの、ホントにするのかなって」
「僕はないけど、できないこともないんじゃないかな。でも重さ的に、君が弾いて僕が上に乗った方がやりやすいと思う。やってみようか」
「…………寺本さんが……上?」
 滝田は唇を離し、頭の中でパズルのように二人の体を組み合わせてみる。
 ピアノの椅子に滝田が座って、その上に寺本が乗って。ん? 向かい合ってか? それとも二人ともピアノを向いて? いずれにしても、滝田の穴の向きは…
 滝田が真剣に考えていると、寺本が音を出して噴き出した。それからピアノの手を止め言った。
「僕たち、同じ物を持ってるんだよ」
 滝田は顔を赤くして寺本から体を離した。
「…嫌?」
 そんなこと、急に言われても…。
「…やっぱり嫌か」
 滝田は首を振る。
 嫌なんてことは、絶対にない。でも…
「寺本さんは…それでいいの?」
「僕はどっちでもいいよ。どっちも好きだよ」
「…そうなの?」
「うん」
「そうだったんだ…」
 なるほど、男同士というのは、役割が固定していないのか。
「君が抱いて欲しいって言うから抱いたんだけど…」
「それじゃ、抱きたいって言ったら…」
「抱かれてた」
「…………」
 なんだ。
 そうだったのか。
 あの痛い思いはいったい何だったのだろう。
 何だか損した気分になった。やはり男同士は解り難い。
「僕だって君に愛してもらえるんだ。やってみる?」
 でも、今すぐと言われても困る。もう何年使っていないのか。
「猫ふんじゃった……なら弾けるけど」
 何と答えたらいいのか解らず、的の外れた答えでごまかした。
「それじゃあ燃えないなあ。せめてチューリップだなあ」
 寺本は笑いながらまたピアノを弾き始める。
 滝田は右手を動かしたまま甘えるように寺本の肩に頬を載せた。
「ピアノ弾いている寺本さんを見てね、すごく興奮したんだ」
 それを聞いた手の中の寺本が軽く痙攣した。一瞬ピアノが止まる。
 また始まった。平常心で弾いていないせいか、音はさっきから外してばかりだ。
「寺本さんの弾いてる姿って、すごくいやらしいよ」
「そう? 僕はじっとして弾いてる方だと思うけど。動く人はすごく動くよね。椅子から落っこちちゃいそうだ。高校の音楽の先生はどうだったの?」
 寺本の眉が上下に二回動いた。ちょっと傷付く。
「そんないやらしい弾き方をするのは寺本さんだけだよ」
 そう言えば、亮子がピアノを弾く姿を見ても興奮することはなかった。滅多に滝田の前でピアノを弾くことのなかった亮子だが、例え弾いていても、滝田は「ああ、弾いてるな」と思うだけだった。思えば、亮子のピアノなどじっくりと聴いたことはなかったのではないか。
 小学生の頃、ピアノというのは女の子のものだと思っていた。ピアノを習っているという男子もクラスに数人はいたが、野球少年だった滝田はそんな奴らを軟弱だと思っていたものだ。それが何故か今では、ピアノは極めて男性的なものに思える。
「ねえ、本当は弾きながらやったこと、あるんでしょ」
「そう言えば『レッド・バイオリン』っていう映画でそんなようなシーンがあったな。ピアノじゃなくてバイオリンだけど。あんなことができるもんなんだね」
「バイオリン弾きながらするの? なんかギャグっぽいね」
「残念ながら男同士じゃなくて男と女だけどね。前向きで。あまり観たくないシーンだ」
 男女のラブ・シーンが苦手な寺本である。
「バイオリンじゃちょっと邪魔そうだけど。ホントにそんなことできるのかなあ」
「ボブに聞いてみたら? 彼ならやりかねない」
「ボブ?」
「あ、知らなかった? 彼、有名なバイオリン弾きなんだよ」
「え、そうなの?」
「そうだよね。クラシックの有名人って、知ってる人は知ってるけど、知らない人は知らないものね。僕だって、野球選手は松井くらいしか知らない」
 そう言えばボブが何をしているのか聞いたことはなかった。スキンヘッドのバイオリン弾きとは、人は見かけによらないものである。あの頭で正装して演奏するのだろうか。裸が好きな彼だが、まさか裸で弾くことはあるまい。
「カフェテリアで話し掛けられて、ピアノ専攻だって言ったら、いきなり伴奏してくれって言われて困ったんだ。こっちに来たばっかりだったし」
 そう言えばデビーが「ボブもきちんと順序を踏んだ」と言っていた。ヒールの踏んだ順序は彫刻のモデル。ピアノ伴奏と彫刻のモデルでは、裸のモデルに軍配が上がるのは致し方ない。
「それじゃコンサートでは寺本さんが伴奏してるの?」
「いや、彼には専属の伴奏者がいるんだ。すごく素敵なおばあちゃんで、もう子供の頃から一緒なんだよ。彼、十五歳でデビューしてるからね。僕はチャリティとか、彼女の体の具合が悪い時とかだけだ」
「寺本さんに振られたって言ってたけど…」
「別に振った訳じゃないよ。昔すごく好きだったバイオリン弾きがいてね。だから、バイオリン弾きとは寝ないんだ。それだけのこと。それと、あいつ……」
 寺本はそこまで言ってしまってから、次の言葉を飲み込んだ。
「何?」
「いや…」
「ボクには何でも話してよ」
 ピアノを弾く手を止めて目を伏せ、しばらく考えてからやや躊躇気味に重い口を開いた。
「…あのね、彼は、子供が好きなんだ」
「…子供?」
「ジュリアードのプレ・カレッジの小学生とかね。彼、ほとんど無償でプレ・カレッジの講師してるんだけど、気に入った子がいるとすぐ誘うんだ。あれはまずいよ。ボブは同意の上って言ってるけど、あの子らにとってボブはカリスマ的な存在だもの、誘われれば嬉しくて、よく解らないまま着いて行ってるだけだと思う」
「でも、その年齢の子だったら、いくら同意の上って言っても…」
「そう、幼児への性的虐待。体を触ったり、キスくらいしかしないって言ってるけど、それでもやっぱり駄目だ。傷は深いよ」
 兄の股間に触れる寺本の手が頭に浮かんだ。
 何も解らないまま自慰の手伝いをさせられた小学生。その罪から逃げ出した大学生。
 初恋の兄。すごく好きだったバイオリン弾き。
 妙に不快になって、滝田は寺本をぎゅっと強く握り締めた。寺本が小さく唸った。
「バリバリのショパンとか弾かないの?」
「こんなことされながらショパンなんて弾けないよ。今、全神経が下半身に集中してる」
「ベートーベンならいいわけ?」
「偉大なるベートーベン様、ごめんなさい」
「チューリップ練習しておくから、もう行こう」
 滝田は立ち上がると、寺本を抱き上げ寝室へ入った。
 白いシーツの上に寺本を下ろし、上から覆い被さる。
 寺本が目を閉じた。
 滝田は唾を飲み込む。
 寺本の肩、寺本の鎖骨、寺本の胸。
 ここにキスして、あそこにキスして、そうしたら寺本はどんな顔をするのだろう。どんな声を出すのだろう。ここに舌を這わせて、あそこに舌を這わせて、それから下に行って、寺本の。それから両脚を上げて、寺本の。
 動けなかった。
 寺本が目を開ける。
 そして起き上がり、滝田を仰向けにして、今度は寺本が滝田の上に覆い被さった。
「…ごめん、あの、寺本さんのここにいれるのが、嫌、って訳じゃなくて…」
「解ってる」
「ただ、よく解らなくて…」
「解ってるよ。気にしないで」
 寺本の唇が近付いて来る。滝田は目を閉じた。

「痛い?」
「ううん……気持ちいい」
 寺本が滝田の上で口を半分開けて動いている。顔をしかめ、苦しそうに、時々歯を食い縛り、時々小さな声をあげ。
 滝田はそれを見て思い出したようにクスッと笑った。
「何? 気持ち良くない?」
「ごめんね、そうじゃなくて」
 寺本は動きを止めて滝田を見つめた。
「最初の頃ね、ホントに最初の頃だよ。寺本さんのそういう時の顔、ピアノを弾いてる時と同じ顔だって思ってたんだ」
「そうなの?」
「うん。でも今は違うね。すごい顔してる」
「すごいってひどいなぁ」
「すごいよ。その顔見ただけでいっちゃうよ。そんな顔して弾いてたら、公衆わいせつ罪で逮捕だ」
「最初はラルゴだったからね」
「何それ?」
「こんな感じ」
 寺本は再び動き出す。最初の頃のような静かな、極めて静かな流れるような動きだ。しかもあまり奥まで入っては来ない。
「これならそれほど痛くないでしょ?」
「あ、そうか、だから最初……」
 滝田がそうつぶやくと、寺本は滝田に顔を近付けて言った。
「早漏かと思った?」
 そして二人は一緒に噴き出した。
「今はもっと速くていいんだよ」
「もう少し経ったらね。壊れちゃうよ」
「寺本さんはそれでいいの?」
「速ければいいってもんじゃないよ。こうして回したり」
「えっ」
「左右も」
「うわっ」
「ね?」
「……うん」
 滝田は寺本を引き寄せ、背中を強く抱く。
「ありがとう」
 寺本は滝田の髪を優しくなでた。
「あ、そうだ。明日はボブの家の裏庭のプールで泳ごうか」
「風邪引いちゃうよ」
「ヒーター付きだから真冬でも泳げるんだ」
「それじゃボブに電話する?」
「彼、今頃ヨーロッパで弾いてるよ。でも家の鍵は持ってるから大丈夫。ジャクジーもあるし、日本から取り寄せたっていう檜のお風呂もあるんだ。気持ちいいよ。彼の家にはいつもいいお酒があるし。お酒を飲んだら、ちょっと昼寝しようよ。彼のベッド、ウォーターベッドなんだ。気持ちいいよ」
「ねえ」
「何?」
「前から思ってたんだけどさ」
「うん」
「寺本さんって、ちゃっかりしてるよね」
「…そう?」
 首をひねりながら、動きがまた少し速くなった。


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テーマ:自作BL小説 - ジャンル:小説・文学

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