射手座の男/赤いマスタング

18禁のBL小説です。音大のバイオリン専攻大学院生×ピアノ科学生の恋愛と、ニューヨークに住む30代日本人男性二人の恋愛の2本を載せています。※移転しました。移転先はプロフィールの下に。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

赤いマスタング 2-4

 この頃滝田は、寺本に仕事が入っている休日の昼間に、寺本抜きでデビーやボブに会う機会が増えてきた。退屈しているであろう滝田を二人が誘ってくれるのだ。
 その日、タコツボの駐車場に着くと、ボブも丁度到着したところだった。GMCユーコンから降りてきたボブが滝田を抱き締めて頬にキスをした。
「ボ、ボクはいいよ、その挨拶は。日本人だし…」
「固いコト言うなよ。いつまでも握手だけなんて水臭いぜ」
 ボブに抱き締められたまま、滝田はふと気付いたように鼻を動かした。
「…何か、君、匂うよ」
「屁なんかこいてないぞ」
「違うよ、なんだっけな、これ、懐かしい匂いだ…」
「ああ、松脂(まつやに)な。Tシャツに粉がついてるのか」
 ああ、そうだ。野球の投手をしている時に使っていた手の滑り止め用のロージンバッグの匂いだ。
「バイオリン弾く時に弓の毛に塗るんだ。塗らないと音が出ないからな」
 ボブは滝田の背中を抱いて店内に向かって歩き出す。
「懐かしいなぁ。昔、使ってたよ、ロージンバッグ」
「ボウリングやってたのか?」
「ううん。野球だよ。これ、いい匂いだよね」
「そうか? サトルは嫌いなんだとよ」
「そうなの?」
「多分。嫌がるから」
「ふうん」
 店内に入ると、既にテーブル席に着席していたデビーが二人に向かって手を振った。
 椅子に座ると、テーブルの上の品書きを手に取って見ながら滝田がボブに聞いた。
「ねえ、ボブ。どう? お父さんたち」
「あれ以上ないっていうくらい幸せそうだよ。もう十年以上も一緒に暮らしてるのに、もう一回新婚が来たって感じだ。ま、新婚っていえば新婚だけどな」
 デビーとボブから滝田の携帯に誘いの電話が入り、デビーが日本の家庭料理が食べたいと言ったので、三人でタコツボのランチに来たのだ。
 三人のテーブルにお茶を運んできた日本人の女性の店員に、デビーが「アリガトウゴザイマス」と言った。「発音がいいですね」と言われてすっかりご機嫌だ。
 タコツボのランチは、日本の定食屋のように魚の塩焼きやコロッケやハンバーグなどが定食になって出てくる。スシやテンプラばかりが日本食だと思っているアメリカ人には是非食べて欲しい味だ。
 ボブが注文を取りに来た店員に「ステーキ」と言った。「ない」と言う店員に、「ないはずはない」と言い、店員は困って黙ってしまった。日本料理屋でもアメリカ人向けにステーキなどのアメリカ料理を用意している店は多く、ボブはそういう日本食屋しか行ったことがないそうだ。しかしタコツボのランチには、残念ながら牛丼などの牛肉メニューはない。
 結局カウンターで寿司をにぎるタコツボの主人にボブが直接交渉し、夜用の牛肉を照り焼きにして貰った。滝田は主人に睨まれ、頭を下げて「すみません」と謝った。デビーも「ゴメンクダサイ」と頭を下げた。
「まったく、この人、どこに行ってもメニュー見ないでサーロイン・ステーキって頼む人だから」
 デビーがボブを睨んで言った。
「牛肉食わないと、メシ食った気がしないんだよ」
「狂牛病で死ぬわよ」
「日本人みたいなこと言うな」
「ステーキとバーガーとフレンチフライがあれば生きて行ける、典型的な不健康なアメリカ人ね。糖尿病になるわよ」
「ピザも食うぞ」
「ごめんね、ボブ。ここに誘って」
 滝田が小声でボブに言った。
「いや、俺、このオシボリってのが好きなんだ。軟らかいタオルのくせに、畳んできつく丸めると、ほら、こうにピーンって立つだろ? 他人とは思えないよな」
 デビーがボブを睨む。
「結局ステーキはあったんだから、気にするな、ルージ。これで顔拭いちゃ駄目なんだよな」
 おしぼりを拡げて手を拭きながらボブが言った。
「サトルが言ってたわね。『オヤジ』って言われちゃうのよ」
「でも俺は拭くぞ」
 ごしごしと顔を拭いた。
「ああ、気持ちいい」
 デビーは運ばれてきたハンバーグ定食を見て目を輝かせた。美味しい美味しいと言いながらあっという間にご飯一杯を平らげ、滝田の注文した刺身定食を見て「次はそれを頼むわ」と、わくわくした目で言った。彼女の食べる姿は本当に幸せそうだ。しかしそれを言うと彼女は少し不快な顔をする。女性としてはあまり言われたくない言葉だそうだ。
 テリヤキ・ビーフを口に入れてボブが言った。
「サンフランシスコで新聞記者してる俺の従兄も、もうすぐマサチューセッツに行って結婚するんだ」
「へえ、おめでとう。よかったね」
 滝田がそう言って水を入れたグラスをボブのグラスに軽くぶつけると、デビーもそのグラスに自分のグラスをぶつけた。
「まあ、おめでとう。あのアミーゴとね」
「そうだよ」
「知ってるの? デビー」
「裸で踊ってくれる一人よ。スタンフォードの大学院に行ってるメキシコ人の留学生、だったわよね」
「ああ、もう卒業したけどな。経済学修士(MBA)、取れたんだ」
 この五月にマサチューセッツ州で同性婚が合法となり、その結婚式の模様はテレビニュースで全世界に放映された。サンフランシスコでの騒ぎよりひと回りもふた回りも大きな騒ぎだ。何しろ州法で認められたのだから誰からも反論されることはない。
 事の起こりは昨年十一月だ。マサチューセッツ州最高裁が「同性結婚の禁止は合衆国憲法に反する」という判決を下した。確かに憲法には同性同士の結婚を禁じる明確な規定はない。そしてついに今年2004年の五月、同性カップルへの結婚許可書の発行が始まった。2000年にバーモント州が「シビル・ユニオン」という、結婚とは違うものの結婚とほぼ同様の制度を導入した。その制度は異性カップルであろうと同性カップルであろうと利用する権利がある。が、通常の男女と同様の結婚制度を同性カップルにも認めたのは、全米でマサチューセッツ州が初めてである。
 滝田もそのニュースは食い入るように観た。去年の夏までは他人事のような事件で、それほど気に留めることはなかっただろう。もしかしたら顔をしかめたかもしれない。
「サンフランシスコみたいに、差し止めとかにならないといいけどな」
 ボブはそう言ってフォークでご飯を口に運んだ。ボブは箸が使えない。
「今度は大丈夫でしょ。州最高裁がいいって言ってるんだから」
 デビーは箸でご飯を上手にすくって言った。
「でも州議会は反対してるんだぜ。薄氷の上の結婚って感じだ」
「だって憲法には同性同士で結婚しちゃ駄目だとは書いてないんでしょ?」
 滝田が聞くと、ボブとデビーは顔を見合わせて首をひねった。
「いい、とも書いてないけどな」
「微妙なとこ、突いてきたわよね」
「ま、逆にはっきり書いてあったら驚きだよな」
「そうよね。ジョージ・ワシントンの時代に、同性同士で結婚していいか悪いかなんて論議、なかったでしょうからね」
「ゲイたちはワシントンに感謝しないとな。はっきり駄目って書かないでくれてありがとうって。ブッシュは、どうして書かなかったんだって地団駄踏んでるだろうけどな」
「二百年以上経って、まさかこんな騒ぎになるなんてね。日本はどうなの? 同性同士で結婚できるの?」
 日本国憲法にも、婚姻は男女間のみというはっきりとした記述はない。しかし常識の範疇でそれは当然であるという暗黙の了解があるので、つまりは同性同士の結婚は認められていない。婚姻届の氏名欄には、当たり前のように『夫になる人』『妻になる人』と書かれている。
「できないよ。憲法にはっきり駄目とは書いてないけど、駄目だっていう人はよく『婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する』っていう規定を出してくるんだって」
 ボブが腕を組んで言った。
「『両性の合意のみ』ってことは『同性の合意』じゃ駄目ってことか。戦後にできた憲法の割に遅れてるな」
「ううん、実はそっちの『のみ』じゃないんだ。親が反対しても、本人同士がしたければできるっていう、当時画期的な『のみ』だったんだよ。昔は家と家との結婚ってのが多かったからね。それが五十年以上経って、同性同士じゃ駄目って意味に取られるようになるとはね」
「ロミオとジュリエットが喜びそうな法律だな」
「そうだね。でも、あの二人もなにも死んじゃうことなかったのにね。まだ若かったんだし」
「悔しいわ。十六と十四のくせに、あんな大恋愛して」
 滝田とボブはデビーを見た。デビーは本当に悔しそうに二杯目のご飯を食べている。ボブは早々にビーフを食べ終え、ビールと枝豆を追加注文した。
「その従兄、サンフランシスコ・クロニクルの敏腕記者なんだぜ。事情を話してボストン支社に転勤させてもらったんだ」
「わざわざ引っ越すの? 結婚式だけ挙げてサンフランシスコに戻ればいいのに」
 滝田が聞いた。
「いや、他の州は認めてないからな、夫婦でいられるのはマサチューセッツ州内だけで、州を一歩出れば赤の他人なんだ。あいつら、二月にサンフランシスコで結婚するって盛り上がってたんだけど、メキシコ・シティの親を説得してる間に許可書発行が差し止めになっちゃって、途方に暮れてたタイミングで、このマサチューセッツの朗報さ」
「ホント、よかったわよね」
 デビーはこういう時、本当に我が事のように嬉しそうな顔をする。
「そいつ、留学ビザで来てるんだけどさ、卒業してもそのビザで一年間アメリカに残って職探しできるんだ。それが切れる前に結婚して、グリーンカードが欲しいんだってさ。アミーゴもあの辺で就職する気だ」
 アメリカ人、つまりアメリカ国籍を持つ者と結婚した場合、グリーンカード取得を申請すれば優先的に支給される。
「可愛い顔したアミーゴでさ、褐色の肌におめめパッチリまつ毛バサバサだ。黒い目っていいよな。青い目と違って熱くて魅力的だ」
「確かに可愛いわね、あの子」
「ケツも丸いし」
「確かに丸いわね」
「見たことあるの? デビー」
 滝田は驚いてデビーを見る。
「自慢のお尻なのよ。見せびらかすの、踊りながら」
「サトル並みのいいケツだ」
「見たことあるの? ボブ」
 今度はボブを見た。
「直接はないんだ。残念ながらな。でも服の上から解るぜ。濡れた水着とかな。触ったこともあるんだ。逃げられた。ありゃいいケツだ。軟らかいし。なめてやると喜ぶだろ」
「よしなさいよ、ボブ」
「すべすべなんだろ?」
「よしなさいってば」
「あああ~ん、とか言うのか?」
「ボブ!」
「知らないよ」
 滝田の意外な返答に、デビーとボブが唖然として滝田を見る。
「…見たこともないよ」
「え?」
 デビーとボブが同時に叫ぶ。
「……そんな余裕………………ないよ」
 滝田は余計な事を言ってしまったと後悔しながら刺身のツマを箸の先でもてあそんだ。お行儀が悪いな。日本人として最低だ。
「…あら」
「…もったいねえ」
 デビーもハンバーグ定食を食べ終えたが、まだ足りなかったようで、店員にビールと餃子を注文した。
 ボブが枝豆をひとつ口に入れて言った。
「このマメ、ホント美味いよな」
 滝田は最後の一切れである中トロの刺身を箸で挟んで、無意識に日本語でつぶやいた。
「ボク……マグロだからな…」
「マグロ?」
 外国語に疎いボブだが、こういう事はきちんと聞き取る。まあ、言ってしまった滝田が悪いのだが。
「ツナ・フィッシュのことよ。このピンクのお魚」
 滝田の箸の間の刺身を指差してデビーが言った。
「ああ、スシか」
「サシミよ」
「違うのか?」
「ご飯の上に載ってるか、載ってないかの違いよ」
「俺は生魚なんてごめんだね。腹に虫が湧くぜ」
「ねえ…」
「何だよ、ルージ」
「…ボクがサトルのお尻をなめないって、そんなに変?」
 店員の持って来たビールを両手で受け取りながらデビーが息を飲む。若い日本人の女の店員も、目を丸くして滝田の顔を見た。
「いや、変じゃないけど……。でも、サトルはお前のケツ、なめるんだろ?」
「うん」
「ケツの穴も」
「うん」
「ねえ、あなたたち…」
「で、お前、サトルのコックは口に入れるんだろ?」
「うん、サトルが入れてくるから」
「ちゃんとやってるんだろ?」
「一応、一生懸命やってるつもりだけど…」
「楽しくないのか?」
「ちょっと…二人とも…」
「だから、そんな余裕ないってば。ボブはなめてて楽しいの?」
「ねえ、ここに女性が一人いるって、解ってる?」
「ああ、楽しいさ。なめるのもなめられるのも大好きだ。基本だからな」
 デビーが「いい加減にしてよ」と言って席を立った。
 デビーが奥のトイレに消えるのを確認してから、ボブは滝田の頭を小突いて言った。
「悩んでるのかよ、お前」
「だって、ヒールみたいな奴見ちゃえば誰だって………」
「ああ、ヒールな」
「サトル、ホントはボクに不満なのに、無理してるのかなって。そう思うと彼が不憫で…」
「あいつはそんな複雑な奴じゃないよ。あいつが気持ちいいって言ってる時は、ホントに気持ちいいんだ」
「そうなの?」
「………ってヒールが言っていた。俺はサトルと寝たことがないから解らない」
「あ」
 また軽はずみな発言をしてしまったことにやっと気付いた。サトルへの想いを遂げられないボブには、滝田の愚痴は単なるノロケ以外の何物でもないのだ。
「…ごめん、ボブ」
「別にいいよ。あいつ、誰とでも寝るくせに、俺とは絶対に寝ないんだ」
「………」
「でも今はお前としか寝ないな」
 ボブは滝田を見つめて鼻で笑った。
「でもさ、真面目な話、セックスってさ、ホント、すっげえ、気持ちいいと思わないか?」
 滝田の目が点になる。
「ま、最初は多少痛いけど、でも、あんなに気持ちいいこと、他にないよな。毎度毎度同じ事やって、それでも飽きないなんてあれくらいだ。それが本当に好きな相手とだったら、その気持ち良さは更に数百倍だよな。なんつうか、その…幸せっていうの?」
 寺本と二人で素肌で抱き合う時、それはやはり滝田にとって至福の時だ。
「なのに、やれ欲しくもない子供ができちゃっただの、やれ病気が伝染っただの、どうしてそうイヤ~なことがまとわり付くんだろうな。ロマンチックなまま、ほっといてくれればいいのによ」
 滝田たちのテーブルに店員が急須を持ってやって来た。先程の女性とは違う中年の男性の店員だ。
「サトルはお前にメロメロだよ。それでいいじゃないか、幸せなんだから、な?」
 ボブは熱い玄米茶が注がれた湯飲みで両手を温めている。
「…幸せ、か」
 自分のセリフを繰り返して下を向いたボブの口元に微かに笑みがこぼれる。
「……ボブ?」
 滝田がボブの顔を覗き込むと、ボブは顔を上げて明るい顔で言った。
「俺、今付き合ってる子のこと、本気で好きになれそうなんだ」
「…小学生?」
 滝田は顔をしかめる。
「違うよ、高校生だよ」
「それなら…よかった。おめでとう、ボブ」
 滝田の顔も明るくなる。
「俺としたことが、向こうから告白されちゃってさ。いい音出す子なんだ。育ててみたい」
 教え子か。
「俺がスケジュールやり繰りしてでもプレ・カレッジで教えてるのはさ、第一にはスケベ心なんだけど、それだけでもないんだよな。時々、ドキッとする演奏する子がいるんだよ。単に上手いってだけじゃなくて、極端な話、いわゆる下手かもしれないけど、キラッと光ってるっていうか、育て方次第では怪物になるぞ、みたいな」
 高校生ならば、しかも向こうから告白してきたというならば、おめでたい話かもしれない。
「なんつうか、今回はマジなんだよ」
「サトルも喜ぶよ。ホント、よかった」
 滝田はテーブルの上でボブの両手を取って握り締めた。
「ありがとな」
 ボブはそう言ってうなずきながら微笑んだ。
「俺も結婚したくなってきちゃったよ」
 そこへ戻って来たデビーが椅子に腰掛けながら言う。
「何よ、リュージの手を取ってプロポーズしてたわけ? サトルに言い付けるわよ」
「よく見ろよ。俺じゃなくて、ルージが俺を口説いてるんだ」
 滝田は慌てて両手を離す。デビーは熱い玄米茶を一気飲みした。
「どうだか。あーあ、私も結婚したいわ。スミマセン、オチャ、オカワリ、ゴメンクダサイ」


スポンサーサイト

テーマ:自作BL小説 - ジャンル:小説・文学

 | HOME | 

FC2Ad

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。