射手座の男/赤いマスタング

18禁のBL小説です。音大のバイオリン専攻大学院生×ピアノ科学生の恋愛と、ニューヨークに住む30代日本人男性二人の恋愛の2本を載せています。※移転しました。移転先はプロフィールの下に。

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射手座の男 5 【危険】

 四年生の寺本は卒業に必要な単位は既にほとんど取ってしまっているので、授業のコマ数は少ない。 広瀬は毎年沢山単位を落としているのでかなり授業が多い。四年になってまで必修の語学の授業を受けているのは広瀬くらいだ。就職よりも卒業が心配だと言っている。
 寺本は不良だが、授業は真面目に受けているらしい。成績はほとんど『A』だと広瀬が言っていた。おまけに邦楽やら歌劇やら必修ではない講義まで聴講しており、甲馬が大嫌いな英語の授業も広瀬と一緒に聴講している。広瀬の方は聴講ではなく受講だが。以前甲馬が「なんでだ?」と聞いたら、「外人にナンパされた時に役立つから」と答え、蹴飛ばしてやろうかと思った。今回晴れて恋人同士になったから、今度そんなことを言ったら本当に蹴飛ばしてやろうと思っている。
 甲馬は楽器ケースのファスナーの中から紙切れを出した。月曜から金曜までの寺本の授業の時間割だ。一週間の間寺本を追い掛けて作った。寺本は授業をさぼらない。
 今はあの五号館の二階のあの部屋で、民族音楽の講義を聴講しているはずだ。
 その建物に向かって、甲馬は中庭を歩き始めた。途中あちこちでいろんな奴がいろんな楽器の練習をしている。
 今日は少し肌寒いがいい陽気だ。空気も澄んでいてすがすがしい。紅葉の季節もすっかり終わり、弱い風が吹く度に中庭には乾いた木の葉がはらはらと舞い落ちる。
 木管、金管、弦、そして打楽器。芝生の上で奏でられる様々な音色に、噴水のしぶきの音が上手い具合に交ざっている。中等部の建物からは合唱の声が響き、少し離れた所にある附属の幼稚園からは、音程の外れたガキの歌声が風に乗って微かに聴こえて来る。
 この旋律も拍子もなく溶け合った音の群れが甲馬は好きだ。春には鳥のさえずりが、夏には蝉の大合唱が加わる。もう十七年近くも同じキャンパスに通っているが、決して飽きることはない。
 五号館の二階の窓の下まで来て、芝生の上に楽器ケースを置き、蓋を開けた。
 建物を背に、思う存分練習ができた。あの窓の向こうに寺本がいると思うと弾き甲斐があるものだ。
 腕時計を見た。あと五分程で授業が終わる。窓を見上げた。
 五分経った。二階の窓に向かって、寺本の食欲をそそるような演奏をしてやった。ビブラートをたっぷりと利かせてやった。ピアノを弾くとその音は周り中に響く。しかしバイオリンの音は楽器の前方に響く。良い楽器なら良い楽器ほど遠くへ響く。
 しばらくすると、建物の出入り口から沢山の学生が出て来た。甲馬の顔を見て笑う者もいる。でも寺本の姿が見当たらない。今日はさぼっているのか。
 そして誰もいなくなった頃に、やっと寺本が出て来た。
「おっせーよ」
「甲馬さんかと思ったらやっぱり甲馬さんだった」
「ラーメン食いたくなったろ」
「あんな劇的にチャルメラ弾くのは甲馬さんしかいないと思いました」
「今日はもう終わりだろ? 恵比寿に美味いラーメン屋があるんだ。はやく行こうぜ」
 昼飯とも夕飯ともつかない時間なのに、ラーメン屋は長蛇の列だった。煙草を吸ってくるから行列に並んでいてくれと寺本に頼んだら嫌だと言われた。一緒に並べと言われた。土井の方がずっと優しいじゃないか。やはり土井とホモになった方がよかった。甲馬は少し後悔した。
 甲馬はラーメン屋のレジで金を払った。寺本は自分の鞄から財布は出したが、甲馬が払うと素直に「ご馳走様でした」と頭を下げた。最近寺本は奢らせてくれる。これでやっと恋人同士のデートらしくなった。満足だ。 店を出た後誘ってみたら、寺本は大人しく着いて来てくれた。

 部屋に入るなり、甲馬は寺本の服を脱がせ、自分も急いで服を脱ぎ始めた。
「にんにくたっぷり入れたからな、バッチリだぞ」
 ベッドの上に座る寺本に向かって匍匐(ほふく)前進しながら甲馬が臭い口で言うと、寺本は壁にもたれかかって大きな枕を抱き締めた。
「着ける物、着けて下さいね。僕の病気が伝染りますから」
 出鼻を挫かれた。
「そういう訳じゃないよ。そんな風に思ってないよ」
 今までだっていつも最初から着けていた。まだ父親になる勇気はないし、先走りにも子種は含まれていると聞いたからだ。
「あ、それじゃ、避妊目的か」
 寺本が目を三日月形にして笑った。この笑顔がたまらなく好きだ。
 こいつとの時着けているのは、シーツが汚れたら面倒なのと、それと、ゴムなしじゃ痛いからだ。いれるオレが痛いのだから、いれられるこいつだって痛いだろうに。
「だってお前、痛いだろうが…」
 寺本は静かに首を振った。
 甲馬はマットレスの下からコンドームを三つ出して、枕元のゴミ箱に投げ捨てた。
「あ、もったいない。後で使えるのに」
 甲馬はムッとしてすくっと立ち上がり、洋服ダンスの引き出しから大きな箱を三つ出して来てゴミ箱に捨てた。
 寺本が笑った。甲馬はゴミ箱から大きな箱を三つ拾い上げ、ドタドタとキッチンに入り、箱の蓋を開けて逆さにし、大きなゴミ袋の中にバラバラと捨てた。
 寺本がまた笑った。甲馬はその上に流しの生ゴミを捨てて、ゴミ袋の口をギュッと結んだ。
 それでも寺本が笑った。甲馬はセカンドバッグから財布を取り出し、中のコンドームをすべて開封して伸ばしてゴミ箱に投げ捨てた。手がゴム臭くなった。
「これで全部だ。参ったか」
 ベッドに腰掛け、寺本の頬をなでる。すると寺本は顔を逸らした。
「どうした?」
 このゴムの匂いは嫌いだと言った。石鹸で手を洗えと言った。こいつ、恐れ多くもこの甲馬さまに指図しやがった。
 …仕方なく洗って来た。
 寺本の中に出した。二年前の夏以来だ。直前で抜くつもりだったが、あまりの気持ち良さについ抜き損なってしまった。
 寺本の中でしばらく泳ぎ、それから抜こうとしたら、彼はしがみ付いてきた。抜かないで欲しいと目を細めた。キスして欲しいと目を閉じた。
 二人の重なった腹の間から寺本の酸っぱい匂いがした。甲馬と同じ匂いだ。実は甲馬はこの匂いがあまり好きになれない。ゴムを使うのはそのせいもある。匂いが漏れる前に封をして捨ててしまいたいのだ。
 次は出る瞬間が見たいと言ったので、直前に抜いて寺本の腹の上に出した。沢山出した。寺本にまたがって、最後の一滴まで搾り出す甲馬の先端を、寺本はじっと見つめていた。それから甲馬の顔を見て、この瞬間が好きだと言った。この匂いが好きだと言った。
 次は口の中でいって欲しいと言って、その細い指でまだ衰える気配さえない甲馬をつかんだ。懇切丁寧に、時に乱暴に、愛しむように右手を動かした。ただの戯れではなく、そのままいってしまっていいのなら、それなりの感じ方がある。今まで誰と体を重ねても主導権を握り、決して溺れることなく最後まで到達していた甲馬が、いつの間にか我を忘れて寺本に下半身を任せていた。甲馬の先端を舌で転がし、そして根元まで含み、喉に当たった部分を刺激する術まで彼は知っていた。そして、うっとりした目で「大きい」とつぶやく。甲馬の体中の血液がそこに集中し、白くなって溜まっていくのが解る。
 たまらず口の中で弾けたものを、彼はごくりと飲み込んだ後、ペロペロキャンディのようにいつまでもなめ続け、やがて味がなくなったと言って先端をストローのように吸い上げた。それから甲馬に顔を近付け、この味が好きだと言った。
 甲馬は寺本を引き寄せ強く抱き締めた。
 半年分の、否、二年分の空白を埋めるように、甲馬は寺本の体を貪り続けた。
 サイドボードの上からキーホルダーのついた鍵を取り、目を閉じてぐったりと仰向けに転がる寺本の鼻先に擦り付けた。寺本が驚いて目を開ける。
「明日、午前で授業は終わりだろ? 終わったらここ来いよ。絶対だぞ。この鍵で開けて入っててくれ。オレもすぐ帰るから。電話するから必ず出てくれよ」



 次の日の午後、甲馬はコンビニの公衆電話から自分のマンションに電話をした。
 誰も出ない。寺本はまだ来ていないのだろうか。伊藤教授に捕まって演説をこかれて、電話するのが遅くなってしまった。受話器を首に挟み腕時計に目をやると、もう二時を過ぎている。待ちくたびれて、怒って帰ってしまったのだろうか。
 十回ベルが鳴ってやっとつながった。つながったはいいが、電話の相手は何も言わない。
「…寺本か? オレだよ」
「何番にお掛けですか?」
「馬鹿野郎」
 絶対に寺本は笑っている。耳を澄ませば、寺本の口から少し空気が漏れる音くらいは聞こえるかもしれない。胸がドキドキしてきた。甲馬は受話器に耳を押し当て、顔をほころばせた。
 電話をすると寺本が出る。これがしたかったんだ。彼は自宅通学生だ。家に電話をしても母親が出るだろう。電話をして、寺本が出て、「もしもし?」と言う、その声が聞きたかった。それがどうしたということもないが、ただそうしたかった。
「もしもしって言えよ」
「しもしも?」
「それ、オヤジギャグだよ」
 寺本が声を出して笑った。
「もしもしって言えよ」
「どうして?」
 寺本の「どうして?」は「どして?」に近い。『ど』を発する時の舌の破裂音が好きだ。
「言ってくれよ」
「もしもし?」
「もっと」
「もしもし?」
「もう一回」
「もしもし?」
「もっと。でも、もしもしもしもしもしとか言うなよ」
「あ、どうして解った?」
「お前のことは何でも解るさ」
「早く帰って来て下さい。お昼、作ったんです」
「え?」
「冷蔵庫あさって勝手に作っちゃいました。簡単なのです。カレーです。お米研いで、ご飯も炊いちゃいました」
「そんなに前から来てたのか? すぐ帰る。実は今近くのコンビニなんだ」
「あ、それじゃウーロン茶か何か買って来て下さい」
 電話を切り、急いでコンビニの店内に飛び込んだ。そういうことは早く言え。一刻も早くマンションに帰りたい。

「ただいま」
「おかえりなさい」
 奥から寺本が出て来た。何だか同棲しているみたいだ。今までこの部屋で何人もの女の子を待たせたことがあるが、こんなに嬉しい気持ちになるのは初めてだ。カレーのいい匂いがする。
「駄目じゃん、素肌にレースのエプロン巻いてなきゃ」
「レースのエプロンが見つからなくて」
「『お風呂にする? それともお食事にする?』って言えよ」
「僕は奥さんじゃない」
 ハッとした。
「僕に女の子を求めちゃ駄目ですよ。お昼だって、いわゆる男の料理です。ワイルドなやつ。ポテトも人参も皮がついたまんまです。冷蔵庫にルーがあったってことは、甲馬さんもカレーくらい作るんでしょ? 僕は肉じゃがなんて作れない」
 違う。甲馬は料理なんて一切しない。冷蔵庫の野菜もカレーのルーも、月に一度くらい来る母親が置いていった物だ。まとめて何品か作って冷凍していってくれるのだ。あのタッパーウェアに入った肉じゃがも母親が作った物だ。
 誤解しただろうか。まだ女が出入りしていると思っただろうか。しかし弁解しても墓穴を掘るだけだ。もしかしたら本当に女が置いていった物もまだ残っているかもしれない。
「ごめん、怒った? そんなつもりで言ったんじゃないんだ、悪かった、謝る」
 甲馬はウーロン茶のペットボトルの入った袋を持ったまま、慌てて靴を脱ごうとするが、焦ってうまく脱げなくて手をかかとに添える。ふらふらして袋の中のウーロン茶がゴツンと床にぶつかった。その拍子に肩の楽器ケースを落としそうになった。
「別に怒ってないですよ。早く食べましょう。冷蔵庫に肉はなかったから肉なしカレーです。ご飯も今炊けました」
 寺本はクルッと後ろを向いて奥の部屋へ戻って行く。怒らせてしまった。その後を急いで追いながら甲馬が取り繕うように言った。
「ごめん。来いって言っただけで、昼メシのこと、何も考えてなかったもんな。腹減ったろ。ごめんな」
 寺本は首を横に振って、弱火だったガスコンロのスイッチを消した。
「僕が作ったんだから、甲馬さんがお皿に盛って下さいよ」
「は?」
「僕は奥さんじゃないんだから」
「悪かったよ。ホント、ごめん。今盛るからな。あっちで座っててくれよ。ごめんな」
「甲馬さん、さっきから謝ってばっかりだ」
「あはは、そうだな、ごめんな。美味そうだな。ホント、ごめんな」
 急いで棚から皿を出して、まず寺本の分だけご飯とカレーを盛ってスプーンと一緒にテーブルに運んだ。寺本はテーブルの前の座布団に座っている。
「今、ウーロン茶持ってくるからな。先に食っててくれよ」
「一緒にいただきますしましょうよ」
「いや、お前、腹減ったろ。先食え。米屋の米は美味いぞ」
 そう言いながら甲馬はキッチンへ戻る。
「甲馬さん」
「あ、ごめん、米じゃねえよ、お前のカレーが美味いんだ。すぐ行くから、食ってろ」
 キッチンのテーブルの上でコンビニの袋からウーロン茶を出し、洗いかごで逆さになっていたマグカップを取ってウーロン茶を注いだ。
「食ってろって言ったのに。はい、これ」
 甲馬はマグカップをテーブルに置いた。
「スプーンをウーロン茶につけてからでないと食えないとかか? お前、案外オヤジだな」
 キッチンに戻って棚からもう一枚皿を出し、自分の分のカレーとウーロン茶を持ってテーブルに戻った。
 寺本は黙って座っている。
「寺本?」
 甲馬は寺本と斜向かいに座布団を置いてその上に胡坐を掻き、下を向いたままの寺本を覗き込んだ。
「ごめん。お前、オヤジなんかじゃないよ。色男だよ。なんとか隊みたいだよ」
「僕の方こそ、ごめんなさい」
「は?」
「言い争いは嫌いとか言っておいて、自分から喧嘩売ったりして」
「売ってないよ。オレ、何にも買ってないもん」
「甲馬さん…」
 寺本の唇はアルコールの味がした。こいつは待っている間に、オレのバランタインに手を出した。

 半分眠り掛けた甲馬の両腕から、寺本はするりとすり抜けベッドを下りた。窓の外はもう暗いが、薄目を開けて時計を見るとまだ夕方の六時だ。
「…腹減ったか?」
「いいえ。今日はもう帰ります」
 服を着ながら寺本が言った。
「もう帰るのか? 泊まっていけないのか?」
「自宅生ですから」
「……そうだな」
 甲馬はベッドの上で上体を起こす。
「夕飯は? どっかで食おうぜ」
「今日は母と一緒に食べてあげないと」
 寺本が一枚一枚服を着ている。脱いでいる姿はいいものだが、着ている姿もいいものだ。
 甲馬は服を脱ぐとあちこちに脱ぎ散らかす。しかし寺本は、脱いだ服を軽く畳んでまとめてジーンズに包む。こいつなら一人暮らしをしてもカビを生やすことはないだろう。「女の子みたいだ」と言ったらまた怒るだろうから黙っていた。
「お前のことギュッてしたままさ、ぐっすり寝たいんだよ」
「それじゃ、今度うちに泊まりに来て下さいよ」
 唐突な誘いだ。
「え? 泊まっていいの?」
「広瀬の家以外は外泊は駄目だけど、うちに泊めるのは大丈夫なんです」
 今までもそうしていた訳か。そうやって何人の男を泊めたんだよ。しかし甲馬は寺本のことを言えた義理ではない。
「親がいたら……できねえじゃねえか」
「そんなことないですよ」
 あ、そうですか。
 …複雑な気持ちだ。
「家まで車で送るよ」
 甲馬はベッドから下りた。
「電車で一本ですから」
「送らせてくれよ」
「この時間は電車の方がはやいですから」
「あ、そうか。そうだな。じゃ、駅まで送る」
 寺本が嬉しそうに笑った。さっきまであんな乱れていた顔が、こんな淡い笑顔に変われるなんて。
 また抱きたくなってしまった。
 そんな衝動を抑えるために大きく一つ深呼吸をして、甲馬はあちこちに脱ぎ捨てた服を拾いながら着た。
「あ、そうだ。鍵、ここに置きましたから」
 寺本は玄関で靴を履きながら靴箱の上を指差した。
「それ、合鍵なんだ。お前のだよ」
 ジーンズのベルトを締めながら、少し照れて甲馬が言った。羽根枕破壊女が置いて行った合鍵の一つにキーホルダーを付けた物だ。少し罪悪感はあったが、せっかくだから活用させて貰った。
「いいだろ、バイオリンのキーホルダー。土井のどっか外国のみやげなんだ。それ、すごく凝ってるんだぜ。f字孔から中覗いてみろよ」
 バイオリンの内部には、製作者の名前や製作年を書いた小さなラベルが貼ってある。玄関に立った寺本が鍵を取ってfの形の穴の中を覗く。両目が少し寄って可愛い顔になった。
 玄関は廊下より低くなっているので、この状態だと寺本は甲馬よりずっと背が低くなる。この体勢で抱き締めることができたら、胸にすっぽり包めて丁度いいのに。でもそうしたらまた寺本に怒られる。彼は女の子ではないのだ。自分より背が低い必要はないのだ。
 寺本の頬に自分の頬を寄せて一緒に穴を覗いた。
「中のラベルにストラディバリウスって書いてあるんだ。豆細工か? こりゃ」
「ホントだ、ちっちゃい」
 と寺本は子犬でも見つけたかのような明るい顔をした。
「オレの鍵はガルネリなんだ。お揃いだぜ。ラベルが違うだけだ」
 自分の鍵を見せながら、甲馬は寺本の手を取った。手をつないで、二人一緒にマンションを出た。
 寺本を見送って駅から戻ると、渡したはずの合鍵が、玄関の靴箱の上に置き去りになっていた。



「力抜いて下さい」
「んんんん………」
 寺本を見上げて甲馬が唸った。
「何ダダこねてるんですか」
「どうしてもいれるの?」
「嫌ですか?」
「だって痛いんだもん」
「痛いんだもんって、子供じゃないんだから」
「いて、いて、いってぇよ」
「じき慣れますよ」
「いててててててて、やっぱ駄目だ」
「ずるいや、甲馬さんばっかりいれて」
 寺本は諦めて途中まで入り掛けた物を抜き、つまらなそうな顔で胡坐を掻いた。
「悪いな。後で人参でも入れて練習しとくわ」
 甲馬は起き上がりながら、尻の穴を押さえてごまかし笑いをした。
「それ、変態ですよ」
 そう言った後、肛門に人参を挟んだ甲馬の姿を思い浮かべたら、寺本は可笑しくてたまらなくなった。甲馬自身も自分のそんな姿を想像したら笑いが止まらなくなり、しばらく二人はベッドの上で笑い転げる。涙をこぼしながら甲馬が聞いた。
「やっぱりお前もいれなきゃ駄目なのか?」
「僕だって男です。たまには、いれて出したいですよ。それに、慣れればすごく気持ちいいんですよ。甲馬さんのこと、気持ち良くしてあげたいんですよ」
「そんなもんかなぁ。合宿の時だってよ、後で大変だったんだぜ。お前、無理矢理突っ込むからよぉ」
 右手の指の背で寺本の頬をなでてやった。軟らかな頬。
「なあ、オレだけ一生懸命愛してやるんじゃ、駄目か?」
「僕だって甲馬さんを愛してあげたいのに」
「え?」
「…………」
「あれ?」
「そういう意味じゃないです。いやらしい意味です」
 寺本は怒った風にそっぽを向いた。
「あらら? 赤くなった? そうか、ついに愛しちゃったか」
「だから違いますってば」
 甲馬は逃げようとする寺本を後ろから羽交い絞めにする。
「そうかそうか、よしよし」
 後ろ向きにベッドに倒れ、両脚で寺本の体を挟んだ。そして柔らかな髪の匂いを嗅いだ。
 この意地っ張りな男のために、早速明日新鮮な人参を買って来よう。そう決めた。

 寺本が彼の家の近くで車から降りると、エンジンを切って甲馬も運転席から降りて寺本に近付き、暗闇の中、車と塀の間で深いキスをした。「近所の人に見られる」と顔を逸らした寺本の顎をつかんで無理矢理引き戻し、更に深くキスをし続けた。寺本の腰が砕けた。その砕けた腰を押さえ、寺本の頭を塀に押し付け、股間同士を擦り付け、丸い尻を両手で執拗になで回した。
 ジーンズの尻の割れ目で指を上下させると、寺本の膝が崩れ始めた。
「…もうすぐオレの誕生日なんだ」
 唇を合わせたまま甲馬が言った。
「ああ…射手座ですもんね…」
 膝をがくがく言わせながら寺本が言った。
「その日、お前んちに泊めて。一晩中したい。それがお前のオレへの誕生日プレゼントだ」
「強引だな。自分へのプレゼント、自分で決めちゃうんですか?」
「そうだ。要らない物をもらっても仕方ない。欲しい物をもらう。極めて合理的だ」
 ソアラが去った後、息を整え家の中に入った寺本はジーンズに違和感を覚え、尻ポケットに手を入れると、そこには置き去りにしたはずのストラッドの合鍵が入っていた。

つづく
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テーマ:自作BL小説 - ジャンル:小説・文学

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