射手座の男/赤いマスタング

18禁のBL小説です。音大のバイオリン専攻大学院生×ピアノ科学生の恋愛と、ニューヨークに住む30代日本人男性二人の恋愛の2本を載せています。※移転しました。移転先はプロフィールの下に。

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射手座の男 7

 甲馬の肛門の流れが滑らかになるにつれて、二人の仲も滑らかになっていった。
 しかし相変わらず寺本は冷たく、甲馬との約束をすっぽかすことも一度や二度ではなかった。しかしその態度が冷たければ冷たいほど、甲馬は寺本にのめり込んでいった。
 クリスマス・イブの晩、寺本は甲馬との約束をまたすっぽかして広瀬に付き合った。案の定、広瀬がカノジョに振られてしまったのだ。若者にとってクリスマス直前に振られるほど辛いことはない。
 イブの晩に広瀬が彼女と泊まるために予約した東京湾沿いのシティホテルの部屋に、イブを一緒に過ごす女の子のいない連中が集まった。広瀬の大学オケの先輩である土井もいる。吉村は早々に鹿児島の実家に帰ってしまった。定員二名の部屋に、六人の男が大量の酒を持ち寄った。
 広瀬が酔って正体不明になった頃、土井の携帯電話が鳴った。
「コンマも来るんだってさ」
 土井が寺本の顔を見て言った。そこにいる連中の中で、甲馬と寺本の関係を知っているのは土井だけで、土井はこの部屋に来た時、寺本の顔を見て少し驚いた。当然クリスマスは二人で過ごすものと思っていたからだ。
 一時間後、甲馬は一升瓶と楽器持参でやって来た。
「コンマさんがどうしてイブの晩に一人なんですか」
 目の据わった広瀬が聞いた。
「すっぽかされた」
 正直に答えると、広瀬はとても嬉しそうな顔をした。土井がクスクスと笑った。
 甲馬は肩から楽器ケースを下ろし蓋を開けた。クライスラーの『愛の悲しみ』や中島みゆきの『わかれうた』を演奏し、落ち込んだ広瀬を更に落ち込ませた。バーバーの『アダージョ』を弾き始めた時、広瀬はベッドに潜り込み、頭からシーツを被って寝てしまった。
「ドン底まで落ち込め。そうすれば後は上り坂だ」
 そう慰めにならない言葉で慰めた。
 フロントから電話が掛かってきて「他の部屋のお客様から苦情が出ております」と言われた。電話に出た甲馬は「そうですか」とだけ答えて電話を切った。「やばいですよ」という連中に、「振られた奴が幸せな奴らに気を遣うことはない」と説得力のあることを言った。
 翌朝、幸せそうなカップルに交ざって広瀬がチェックアウトした。部屋番号を言うとフロントの女性は何か言いたそうな顔をしたが、広瀬の赤い目と間抜け面を見て、黙って鍵を受け取った。
 金が足りなくて、結局土井がクレジット・カードで払った。広瀬が言うには、ティファニーの18金のオープンハート・ネックレスを買って、既に彼女に渡してしまっていたので金に余裕がなかったそうだ。
「クリスマス・プレゼントをどうして前もって渡すんだよ」
 甲馬が聞くと、二日酔いの広瀬は目を細めた。
「クリスマス・デートに着けて行きたいからって。そんないじらしいところが好きだった」
 遠い目をした。
「彼女と泊まってたらホテル代はどうするつもりだったんだよ」
「さあ…」
 首を傾げた。
「後でちゃんと土井に金返せよ」
「いいよ、おれも泊まったんだから」
 土井がフロント・デスクでサインをしながら後ろ向きで言った。
「広瀬ってやっぱり馬鹿だ」
 甲馬が言うと、みんながその通りだと言わんばかりにうなずいた。いろんな意味で馬鹿だ。
「魚座のB型だからね。仕方ないよ」
 と土井は笑いながら財布にゴールド・カードをしまった。甲馬が驚いて土井を見ると、寺本が腹を抱えて笑い出した。
 その後、甲馬と土井の車に分乗してみんなでホテルの近くのディズニーランドに行くことになった。寺本はさっさと土井の黒いGTRの助手席に乗り込んでしまった。計器類を指差して嬉しそうに土井に話し掛けている。オプションやら何やら付けて600万近くしたという車だ。寺本が一番好きだと言っていた車だ。言ってしまった後ハッとして、「ソアラも好きですよ」と弁解した。悔しいが、甲馬本人もGTRには敵わないと思っている。女の子にはソアラの方が受けるのだが。
 土井の父親は車マニアだ。ひとつ前の型の「幻のR」と呼ばれるケンメリGTRも車庫に置いてある。発売直後オイルショックと排ガス規制という憂き目に会い、発売から僅か四ヶ月足らずで生産中止となってしまったため、その希少価値は計り知れないものとなった幻の名車だ。
 土井の家の車庫のことは絶対に寺本には知られたくない。知ったらきっと入り浸ってしまうだろう。あの車庫はちょっとした自動車博物館だ。
 ソアラの助手席に広瀬が乗って来た。甲馬は何度も蹴飛ばして、広瀬を後部座席に追いやった。すると今度は「後ろが狭い」と言って助手席を前にずらそうと手を伸ばしてきた。触るなと大声で怒鳴り散らすと広瀬はやっと大人しくなった。広瀬の隣の奴まで大人しくなった。
 ディズニーランドはその日広瀬が彼女と一緒に行くはずだった場所で、園内は腕を組んだ若いカップルであふれていた。それを見てまた落ち込むかと思われた広瀬は、夕べドン底まで落ち込んですっかり吹っ切れたらしく、終始明るく振る舞っていた。
 広瀬の友人たちが「何とか彼女と連絡を取って、ネックレスだけでも返してもらえないだろうか」と話し合っている。
「馬鹿の友達はやっぱり馬鹿ばっかりだ。今頃質屋の店先さ」
 甲馬が吐き捨てた。土井と寺本が、パレードと一緒に踊る広瀬を横目に、顔をしかめて首を振った。
 野郎が並んで冷たい地面に座り花火を見た。広瀬は口をポカンと開けて夜空の大輪の花を見上げている。隣の寺本がその広瀬の肩をポンと叩くと、広瀬は寺本の肩に抱き付いた。抱き付いたまま、大きな声で泣いた。泣き声はシンデレラ城の上の花火の音にかき消された。寺本は何も言わず、泣きじゃくる子供をあやすように、広瀬の背中を何度もさすっていた。
 甲馬は広瀬ごときに少し餅を焼いた。それでも大人しく見守っていた。広瀬は甲馬の可愛い後輩だ。ドン底から坂を上る途中で、時々休憩するのは必要なことだ。



 クリスマスをすっぽかした償いとして寺本は、元旦の初詣は甲馬と二人で明治神宮に行くことを無理矢理約束させられた。
 渋滞するから電車で行こうという寺本の言葉を無視して、大晦日の晩、甲馬はソアラで寺本を迎えに来た。
 案の定、いつも以上の渋滞で全く原宿までアクセスできず、そのまま甲馬の大学近くのマンションへ直行した。
 除夜の鐘を聞きながら、寺本が甲馬の下で言った。
「結局こういうことですか」
「結局こういうことだ」
「明けましておめでとうございます」
「今年もよろしく」
「あ」
「百八つ、連続で突くぞ。オトシダマだ」
「………」
「……え?」
「それっぽっちですか?」
「…………………」
 新しい年の最初の朝、窓から差し込む日差しで甲馬が目を覚ますと、低血圧の寺本が隣ですまして甲馬を見ていた。
 よく晴れた朝だった。そのあまりのすがすがしさに、甲馬は寺本を抱き寄せぴったりと体を重ねた。
 そのままもうひと眠りしようと目を閉じた時、寺本が耳元で「抱いて」とささやいた。『だ』と『て』の子音だけが聞こえ、甲馬の全身が目を覚ました。

 元旦以降の冬休み、二人は毎日会った。夜はそれぞれの自宅に帰ることもあれば、甲馬のマンションに一緒に泊まることもあった。寺本の家には例年通り、大阪で暮らす兄家族が年末から泊まっている。その兄や孫たちの相手で忙しい寺本の母親は、電話さえすればあまり深く追究しなかった。兄には東京転勤の辞令が出ている。間もなく東京の社宅に転居する予定で、母親は大はしゃぎだ。
 寺本は雑煮もお節料理も甲馬の実家で食べた。米屋のつきたての餅はとても美味しかった。寺本を見て、祖母が「仁左衛門の若い頃みたいだ」とやたら喜んでいた。酔っ払って腹や尻を出して踊り出す甲馬の親戚を見て、最初寺本は面食らったが、甲馬の叔父が南京玉簾を踊り始めた頃にはすっかり楽しくなっていた。甲馬の祖父が喉に餅を詰まらせてのた打ち回る振りをした。毎年恒例のこの余興に、親戚中大笑いだった。寺本が笑って「本当に詰まった時はどうするんですか?」と聞くと、祖父は黙ってしまった。
 高級な物を食べたくなって、甲馬は寺本を連れて土井の家を訪ねた。土井は留守で、他の家族もみな緊急外来で出払ってしまい退屈していた土井の祖母は大喜びだった。真新しいいぐさの匂いの和室に通され、京都から取り寄せたというお節を、腹を壊すほど振舞われた。それから土井の姪や甥と凧揚げをして遊んだ。
 冬休み最後の晩、寺本は家に電話もせず無断外泊し、家に戻るとさすがに両親にこっぴどく叱られた。危うく捜索願を出されるところだった。

つづく
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テーマ:自作BL小説 - ジャンル:小説・文学

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